2001.10
第1号5P
 
 
 
致死量の30倍もの硫化水素が「臭いものにフタ」の県の態度
 これは「問題」というより、すでに「人的災害事件」である。現実に被害が発生しているからだ。村田町沼辺にある「竹の内産廃処分場」では、数年前から強い悪臭がたち込め、測定でも致死量をはるかに超える硫化水素が検出された。このため周辺住民はこれまで何度も県に抜本的な対策を要請しているが、県はこれといった処置を何一つしていない。この間にも住民の生活が蝕まれている。
 
 竹の内産廃処分場は、東北縦貫道の村田インターチェンジから車で5分ほどの場所。周囲は田畑と林野に覆われている。
 処分場の広さは約6・7ヘクタール。今でこそ産廃物は運び込まれていないが、平成2年から今年の5月まで約32万4435立方メートルが捨てられ、地表を覆い尽くし ている。
 もっとも、この数字は処分場を経営する「グリーンプラネット」が県に届け出た計画埋め立て容量にすぎない。実際には「産廃物は平均で15〜20メートルにわたって堆積しており、深いところでは25メートル以上もある。
恐らく、届け出た埋め立て容量の3倍は捨てられているはず」(「竹の内産廃からいのちと環境を守る会」の岡久氏)とみられている。
 事実、現場を見ると、ドス黒い粘土質の汚物がヘドロのようにびっしりと埋められており、言いようのない悪臭が鼻をつく。処分場のあるこの一帯は寄井地区と呼ばれ、145世帯の住民が暮らしており、処分場から直線距離にして240メートル先に中学校、550メートル先に小学校がある。しかも処分場のある方向が風上になるため、もろに悪臭をかぐことになる。
 周辺住民が悪臭を感じはじめたのは平成6年頃からで、平成9年になると「ほとんど毎日、誰もが悪臭を感じるようになり、苦痛を訴えるようになった」(地元住民)。
 この悪臭の凄まじさを、臭気調査のために処分場に足を踏み入れた高校生は、こう綴っている。
「ゴミのお釜です。それよりも臭いです。臭いを通り越して『死んじゃう!』という感じでした。本当に吸える空気というのが全くないに等しくて、酸素ボンベがほしくなった くらいです」
 また、前出の「いのちを守る会」では、周辺住民や中学校にアンケート調査をしたが、そこでも「臭気が家に入り込み、安眠できない」「床や畳に臭気が滞留するので、乳児を寝かせておけない」
「子供たちが家を出たいと言う」「悪臭に我慢できず、引っ越した人がいる」「頭や鼻、目、喉が痛くなり、吐き気がして不快な気分になる」などの声が寄せられたという。
 硫化水素は無色透明で空気よりやや重く、水に溶けやすい、刺激性をもつ気体である。毒性を含み、呼吸中枢障害・粘膜刺激作用・中枢神経系の細胞を損傷する。50ppmを吸い込むと、鼻炎や気管支炎・呼吸困難・頭痛・めまい・吐き気・脱力感・心筋障害・血圧低下などの症状が起こる。目に入ると、結膜炎・角膜炎などを引き起こす。
 濃度が高まると、チアノーゼや歩行失調・全身痙攣が起こり、さらに意識喪失・ショック・心停止に至り、1000−2000ppmを数分間吸い込むと死亡すると言われている。住民や生徒たちがアンケートに答えた症状は、まぎれもなく硫化水素によるものと見られている。
 実際、平成9年から今年3月までに、この地区では18名が亡くなっており、現在3〜5名が入院している。硫化水素との直接的な因果関係は解明されていないが、「地元では不自然な亡くなり方だと思っている。何らかの影響があったことは間違いない」(地元住民)という見方が強い。「いのちを守る会」が何度も県に訴えたこともあって、処分場の測定調査がこれまでに数度行なわれた。その結果、今年6月2日に県と地元住民の合同調査の際には、脱臭処理前で4000ppmを超える数値が出て、脱臭剤使用後でも1000−2000ppmが検出された。6月5日の調査では、驚くことに21000ppmという致死量の実に30倍もの数値が測定されたのである。この数値は国内の産廃処分場で測定された最高値である。
 なぜ硫化水素が発生したのか。竹の内処分場で扱う廃棄物は建設残土・コンクリートなどの建設廃材・クズ類・廃プラスチック類の、いわゆる安定5品目のみを埋めることで許可されていた。ところがボーリング調査をしたところ、布切れ・紙切れ・木片・注射針・ガーゼ・猛烈な重油の臭いがするオイル吸着マット・焼却した灰など、ありとあらゆる物が不法投棄されていたのである。
 これまで「いのちを守る会」では、処分場業者と県に対し、何度も速やかな対策の実行を要請してきた。特に産廃処理を許可した監督責任者である県に対しては、3241名の署名を浅野史郎知事に提出するなど、抜本的な改善を行なってほしい旨を、何度も訴えてきた。
「知事には電話やファクスだけでなく、現地の実体を撮影したビデオを送ったり、直接お会いしてお願いも何度かしました」(前出・岡氏)
 それでも業者も県も誠意ある対応を示さなかったため、「いのちを守る会」は仙台地裁に申し立てを行なった。
 処分業者に対しては、@処分場に産廃物を持ち込まないこと、A産廃物を地表および地下に投棄したり、焼却したりしないこと、B硫化水素の発生を抑止するための適切な措置を行なうこと−−という仮処分命令を申し立てたのである。この結果、仙台地裁は業者に対し「産廃物の持ち込み禁止と焼却炉の使用停止」を言い渡した。
 一方、県に対しては、「処分場の地表および地下の汚染状態について、ボーリング調査を実施し、分析した結果を公開するなど、必要な措置をとること」という調停申し立てを行なった。どのような廃棄物が、どれだけ埋められているのかがわからなくては、対策の立てようがないことからすれば、当然のことだろう。
 調停は6月15日に行なわれたが、県は「ボーリング調査はしない。ガス抜き管からガスを抜き、埋め立てられた廃棄物の上に土をかぶせればよい」という文字通り゛臭いものにフタをする″だけで十分という態度に終始した。この調停以前に浅野知事は「ガスが硫化水素だったら大問題。逃げずにやります」と述べていたことから、「言っていることと、やっていることが全く違う。知事や県当局は我々が苦しんでいるのを、何にも考えていないのでないか」(地元住民)との憤りの声が挙がっている。
 県は9月中にも学識者による「竹の内産廃処分場検討委員会」(仮称)を設置し、今後の対策を協議していく方針だという。だが、これについても「そんなに悠長に構えていられる問題ではない。私たちにとっては一刻も
猶予できないことなんだ。検討委員会なんて体のいい時間稼ぎのポーズでしかないだろう」としか地元では評価されておらず、知事と県当局への不信感は根強いものがある。
「処分場の汚染物が地中に染み込み、それが近くの荒川や田んぼに流れている可能性がある。第二の水俣病になるかも知れない」という不安の声も起こっている。県の杜撰な対応が惨禍を拡大させていく要因になったとしたら、もはや責任云々では済まされそうにない。
 
 
 
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