2001.11
第2号3P
 
 
 
2001年10月28日、自民党第5選挙区支部で反乱が起き、この地域
の自民党組織は事実上分裂した。過去20年間に及び「骨肉の争い」
を続けている自民党。その病巣の原因は果たして何なのか。
 
 中国の古典『三国志』は大方の人が知っていよう。この中に魏の曹操の三男・曹植が登場する。曹植は詩才豊かだが、長男の曹丕から疎まれ、亡き者にされようとする。その折り、曹植は『七歩ノ詩』を即興し、窮地を凌いだ。その詩は次のようなものである。
  煮豆燃豆箕
  豆在釜中泣
  本是同根生
  相煎何太急
 読み方はこうである。
〈豆を煮るに豆箕を燃やすれば/豆は釜の中に在りて泣く/本は是れ同根の生まれなるに/何ぞ相煎の太りに急しき〉意味はすでにおわかりだろう。
 「豆も豆がらも同じ根から生まれている。それなのになぜ煮るのを急ぐのか」ということで、曹植は豆にたとえて曹丕に「お互い兄弟なのに、なぜ兄は私を亡き者にしようとするのか」と諫めたものである。
 『七歩ノ詩』を紹介したのは、小紙の薄紙のような知識をひけらかしたいためではない。石巻市の政治状況を語るとき、この詩がピタリと符号するからである。

 石巻市は「政争の街」と言われ、暗闘、確執が現在まで20年以上に及んでいる。発端は「AK戦争」である。当時の青木和夫市長派と新進県議だった黒須光男氏グループの間で勢力争いが起こり、市政が長く混乱を極めたことは、石巻市民ならずとも県政関係者なら知らない者はいない。
 青木氏は地元代議士の内海英男氏系で、黒須氏は長谷川峻代議士に与したのち、菊地福次郎氏の傘下に入った。いずれにしても保守系・自民党所属同士による内部抗争だったことは否定できない。
 その後、青木氏は3期で市長を勇退。黒須氏は現在宮城県政を動揺させている官製談合問題の引き金になった、一般競争入札妨害の罪で今年1月に逮捕され県議を辞職した。ここに及んで「AK戦争」は終止符を打った感があるが、その残滓ともいうべき自民党・保守系同士の暗闘は未だに続いている。
 来たる11月18日。知事選と並んで、黒須前県議の辞職に伴う補欠選挙が石巻市で行なわれる。立候補者は3人だが、「事実上は石巻市議の保守系同士の一騎討ち」(政界関係者)と見られている。
その1人、佐々木喜蔵氏は自民党員のことから党が推薦。一方の本木忠一氏は無所属で出馬する。不思議なことに、両氏は市議会で同じ会派の「改革クラブ」に属し、佐々木氏が会長、本木氏が幹事長という間柄である。
 このため政界関係者の間では「(2人の間で)なぜ調整がつけられなかったのか。骨肉の争いになり、どちらが勝ってもしこりが残るだろう」と今後のことを懸念する声が洩れている。
 事実、この補選が終わっても、2年後の平成15年春には本選挙の県議選が控えている。本選挙には黒須前県議も出馬すると見られており、国政に意欲を見せている自民党の齋藤正美県議が県議を続投することになれば、3議席を本木、佐々木両氏を含めて5人で争うことになる。その際、「選挙は水物だし、今後どう展開するかわからない」としながらも、関係者は「黒須氏は死活がかかっているだけに、すべてをかなぐり捨てて来るから手強い存在になる。保守系の齋藤、本木、佐々木の3人は地盤がほぼ共通している。万が一、票が割れるようだと、3人が共倒れする危険性が十分ある」という。
 この「共倒れ」の可能性は、国政選挙においてさらに現実味を帯びている。小泉純一郎首相が解散をいつ断行するかは定かではない。だが「構造改革と景気回復の実効が見えてこなければ、野党が追及し世論も反発する。
 それまでの猶予期間はそんなにあるわけでなく、案外近いだろう。そのときに解散となるはずだ」(政界関係者)とは大方の見方であり、遅くとも2年以内に解散・選挙になることは必至である。
 この選挙の自民党系立候補者としては、土井喜美夫氏と齋藤正美氏が予想される。土井氏は前回の選挙で1300票差という惜敗だったから、早くも捲土重来を期すべくすでに準備に怠りない。一方、齋藤氏が出馬となれば「自民党の譜代議員の立場から、党は当然公認候補として推すことになる」(政界関係者)。この結果、ここでも保守・自民党系の両者が争うことになり、調整・協力如何によっては、前回の選挙と同様に民主党議員が当選することになりかねない。
 これを回避する策としてはコスタリカ方式がある。土井、齋藤両氏を選挙区と比例区に分けて自民党が公認・擁立する形である。ところが「どちらを比例区に回すかで、必ずもめるだろう。自民党は前回の選挙でコスタリカを行なったが、実際には全く機能していなかった」(関係者)と言われ、調整は至難の業と見られている。
 こうした県議選、国政選挙で自民党は何故挙党体制がとれないのか。もちろん「選挙に出る出ないはつまるところ個人の判断であり、ひとたび名乗りを挙げればたとえ身内と言えども争う」という性質のものであることは否定できない。また、自民党は一大組織政党であるが、「内実は自民党ではなく自分党だ」(政界関係者)と指摘されていることも事実である。
 しかし、骨肉同士が争い、その結果他の政党に漁夫の利を奪われることを繰り返していたのでは、そこに政党としての組織性や意義を見ることは不可能である。同時に自民党支持者の気持ちを踏みにじるものだろう。このことが有権者の自民党離れの大きな要因になっていることは否定できないし、石巻市の自民党はその最たるものであろう。
 前述した内海、長谷川両代議士が健在だった頃は、石巻地区は「保守王国」として名を轟かせていた。内海、長谷川両氏が大臣まで務めたことを思えば、現在この地に自民党代議士が誰一人としておらず、逆に民主系代議士が2人輩出していることは、昔日の感があると言えるだろう。

 この凋落の原因はどこにあるのか。自民党関係者は「大きな要因は2つある」と述べ、次のように指摘する。
 「第一点は、内海、長谷川が引退したあと、石巻を含む第5選挙区に指導的リーダーが、未だにいないことだ。そのため組織として欠かせない求心力がここにはない。だから党のことよりも、自分のことだけを考える。その結果、いざ選挙となっても一枚岩になれないし、なろうとしない。前回の衆議院選などはその典型だ。土井喜美夫と二見剛との間でコスタリカを組んだが、このコスタリカを組むまでにもゴタついた。難産の末に組んだと思ったら、2、3の県連幹部が選挙中に汗をかいただけで、あとは選挙区支部も県議もさっぱり動かない。これでは勝てるわけがない。民主党はホクホクだったろう」
 ちなみに前回の選挙で行なったコスタリカ方式は、土井、二見両氏に加え、齋藤県議を含めた変則的なものだった。出馬しない県議を入れて、しかも3人でコスタリカをするということは、奇妙としか言いようがない。
 さらに、このコスタリカは来たる選挙にも当てはまるのだという。一般常識からすれば、コスタリカは各選挙単位で考え実施するものであろう。まだ候補者が決まってもいないのに、候補者擁立の方法だけが決まっているというのは、どう考えても腑に落ちるものではない。このため「もし候補予定者が出馬しないとか、亡くなったとしたらどうするんだ」という失笑が洩れている。
 「こうしたわけのわからないことをやっているから、支持者もソッポを向くんだ」と自民党支持者も憤りの声を隠さない。
 また、支持者並びに党員からソッポを向かれる要因としては、「第5選挙区のあり方にも問題がある」と、前出の自民党関係者は言う。
 「現在、第5選挙区支部には支部長はいない。国会議員がいないから空位になっていて、斎藤修氏が支部長代行を務めている。だが、この人は政治家ではないし、国政に出るという話を聞いたこともない。全くの民間人だ。自民党本部の規定で支部長を現職の国会議員もしくは国政をめざす者としているのは、選挙区支部こそが選挙戦の重要拠点であり、ここを中心にして選挙区支部内で選挙に臨もうという狙いがあるからだ。支部長はその責任者になるわけだから、候補者自身の方が求心力をもてるし、組織力を発揮できることになる。
 だが、民間人の斎藤氏ではその点で組織が一枚岩になり得ない。みんなが『支部長を勝たせよう』という気持ちにならないんだ。
 しかも斎藤氏が敢えてしていることなのかどうか、第5選挙区では5年以上も支部総会が開かれていない。情報公開の時代にこれではあまりにも密室すぎるし、支部党員の意識統一や選挙にあってどう臨んだらいいのかというスタンス・戦術が伝わらないことになる。これでは単なる個人投票でしかなく、政党本来の組織選挙をできるわけがない」
 実際、これまでの選挙にしても、来たる県議補選にしても、「石巻では自民党の公認や推薦を得た方が、イメージ的にマイナスに作用する」(政界関係者)と言われている。それだけ自民党及び第5選挙区支部のあり方に不満が充満しているということだろう。
 もちろん、こうした自民党の「病巣」の元凶が、自民党の体質だけにあるというものではない。産業界の在りようも大きな要因になっていることは否定できない。石巻地域の産業構造は大きく農業と水産業、土建業に区分される。これらの業界関係者が政治家と密接的な関係にあることは、日本の政治風土に共通する状況である。中でも土建業者が政治家に依存することは周知の事実だが、石巻地域の場合、その傾向が宮城県内でも甚だしいと言わざる得ない。
 県議を辞職した黒須氏の場合はその典型的なケースだろうし、このことは黒須氏ばかりでなく他の政治家、特に自民党系の議員には少なからず当てはまることである。この政治家と業者との癒着について、政界関係者はこう解説する。
 「石巻の土建業者の大半は公共工事で食べている。そのため業者は仕事を取ってきてくれる議員を物色し、近づく。これは政党として近づくのではなく、議員個人といい関係になろうとする。そのため個々の議員に業者内の派閥というか、グループが生まれる。この派閥がいざ選挙になると、応援に回る。票の取りまとめ、事務所の手助け、選挙資金の調達などだ。自民党議員の場合、個々の議員同士で利害関係があるが、それが身内の議員ということで業者間にも利害・敵対関係がある。
そしてこの利害関係は同じ地域内だけに凄まじくなる。だから政党は一緒でも、足の引っ張り合いが起こり、議員はそれを止めることができない。止めようとすれば、資金も票も途絶えてしまうことになる。この繰り返しが延々と続いているということだ」

 資金と票の双方の支援がなくては、議員は選挙に勝つことができない。そのため業者におもねることになる。一方、業者は個々の議員に働きかけて仕事を回してもらう。そうしなければ企業としての死活に関わってくる。この双方の利害があるために癒着が起こり「土建型選挙」があとを絶たないことになる。
 その意味で今回の補選は、これまでの石巻の政治体質を変えることができるかどうかという点で注目されるだろう。同様に自民党が従来の内部抗争的な体質から脱皮できるかという点でも、重要な意義をもつに違いない。
 そして、この補選の延長線上に2年後の県議本選挙があり、さらには衆議院選挙が行なわれることになる。自民党の病巣を摘出し、新たな政党として再生していけるかどうかは、自民党県連はじめ第5選挙区、各議員の意識・組織改革と、産業界を含めた有権者の政治に対する姿勢に関わっていることは言うまでもない。それが改められないとなれば、石巻地域における「自民党復活」は永遠にあり得ないのではないか。
 
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