2001.11
第2号4P
 
 
 
 これはどう見ても「意趣返し」としか思えないだろう。町長自ら「反省を促したい」と明言しているのだから。登米郡迫町の伊藤吉衛町長は、先の町長選で争った地元業者を、町発注工事の指名から外した。そのため、この業者は意図的に外されたとして、民事訴訟を起こした。裁判の結果、業者の訴えは退けられたが、図らずも町長の品格と判決の奇妙さが浮き彫りになってしまった。
 
「事件」の発端は町議会だった。平成11年12月の迫町議会で、次のような質疑応答が繰り広げられたのである。

 議員「今年度に入ってから町発注工事にかかる入札において、業者指名のあり方で、町長選挙後かなり一線を引いて行なわれているという噂が囁かれている。果たしてそういうことがあるのかどうか、お聞かせ願いたい」
 伊藤吉衛町長「入札のあり方は基本的に従来と変わってはいない。しかし町長選挙が終わってから、何社かの業者が指名から外れていることも事実だ。この件については、私の心の整理がつき次第と限定している。(我々は)町づくりに努力しているが、それに反するような行動をとった業者については、若干反省を促したい気持ちがある。2社の業者には(町づくりに反している)経緯があるということだ」
 議員「町長が指名委員会に2社の業者を指名から外すように指示しているのか」
 町長「一切指名委員会には口出ししていない」
 議員「先ほどの答弁と今の答弁は異なるのではないか。町長の町づくりの姿勢に反する行動をとった業者2社を外しているというが、町長は指名委員会の構成員でないことからすれば、町長が指名するわけはないではないか。また、町づくりに反する行動とは、具体的にどういうことなのか」 町長「個々に助役などに、私の気持ちはこうだと話をした経緯がある。しかし指名委員会には顔を出していないし、そうした話し合いに出た記憶もない。町づくりに反する具体的な行動については、現在歴史博物館を建設中だが、この工事を請け負った業者が建設中に『こういう施設が必要なのかどうか』という話をしており、そのことが私の脳裏にずっとある。だから私の気持ちの整理がつく間ということで、この件について助役と話をした経緯がある」
 議員「町長は助役に私の気持ちはこうだと話したという。すると指名委員会は意味をなさないものになるのではないか。助役は指名委員会のトップだ。その者に私の気持ちはこうだと言えば、指名委員会に口出ししていないと言えないではないか。これは絶対許されない大問題だ。また、町づくりに反したと言うが、さまざまな意見があるのは仕方がないことだ。気に入らないからだめだということなのか。これは重大発言であり、町長の真意を聞きたい」
 町長「業者の方々が今まで私のところに何回か挨拶に来ていたが、町長選後の新年度を契機に顔出しをしなかったということがある。また、町長選では業者の皆さんに中立を保っていただきたかったというのが、私の本音だ」
 議員「助役にお聞きしたい。あなたは町長から外せと言われなかったけれど、町長の意を察して
外したということなのか。それとも町長から外した方がいいという話があったのか。どちらにしても大問題だが」
 助役「業者というのは、町が発注した事業を誠実に履行しなければならないことは当然だ。ところが、この業者については町の発展を阻害する恐れがあり、それを危惧していた。何事についても町に批判的だったので、当分の間、指名しないことになった。これは町長に指示されたのではなく、私の判断で指名委員会に諮って、そのように進めてきた」


 念を押すまでもないが、この質疑応答は町議会という公式の場の公式発言である。議員が述べているように、町長と助役の答弁は実に重大なことがわかるだろう。改めて町長と助役が話したことを整理すると、以下のようになる。
@町長選が終わってから、2社の業者が町づくり反した行動をとっているため、町長は自分の心の整理がつくまで指名から外していること。
A町長は指名委員会に口出しはしていないが、個々に助役などに指名から外したい旨を伝えていること。
B新年度になって業者が挨拶に来なかったことを、町長は不快に思っていること。
C町長選の際に、町長は業者に中立を守ってほしかったこと(つまり は対立候補者に肩入れしてほしくなかったし、肩入れした業者を苦々しく思っていたということになる)。
D業者の指名外しについ て、助役は指名委員会 に諮って行なっていたこと。
 要するに、町長と助役が先の町長選を踏まえて、意図的に特定業者を指名入札から排除したということである。
 事実、平成11年4月に行なわれた迫町長選では、現職の伊藤町長に対抗して指名外しを受けた業者の社長が出馬。もう1社の業者も伊藤町長を応援しなかったという経緯がある。
 また、町長と助役はこの業者が「町づくりに反した行動をしている」と述べているが、実はこの業者は迫町の佐沼商工会の副会長を務めており、町づくりを支援する主要メンバーとして伊藤町長から任務を委嘱されてもいる。単なる「町政批判者」ではないし、町長選に出馬したのも、町を思えばこそと言えるだろう。
 言うまでもなく、町長は自治体の運営最高責任者であり、助役は自治体が発注する工事の指名委員会の委員長である。その両者が意図的に特定業者を排除したいと考えれば、指名委員会とは名ばかりのものになる。
 各自治体が指名委員会に首長を加えていないのは、平成5年当時、宮城県知事と仙台市長がいわゆる「天の声」を発して、特定業者と癒着したゼネコン汚職事件が引き金になっている。町長、助役の指名外しはまさに「逆・天の声」と言えるもので、どう考えても公平性を欠いた行為としか映らないだろう。
 このため、この業者は平成11年7月に迫町が執行した3件の工事について、意図的に指名外しが行なわれたとして、名誉毀損並びに損害賠償を求めて、迫町に対して民事訴訟を起こした。裁判は今年4月9日の初公判以来、伊藤町長と助役をはじめ指名委員会の構成メンバーが証人として陳述。さる7月30日に仙台地方裁判所は「原告である業者の請求をいずれも棄却する」との判決を下した。
ところが、この判決を裏づける主文を見ると、判決との整合性が欠けているとしか思えないものなのである。主文の要旨は以下のようなものである。
@町長と助役の議会内で発言は、業者名を直接挙げなかったとしても、原告を特定してなされたものと考えられる。
A町長と助役の発言は議会という公の場でなされたものであり、行政責任者の発言としては穏当を欠く。
B町長が助役に指示して2〜3カ月の間、原告入札指名を見送らせたことは十分に考えられる。
C原告が町政批判をしたとしても、町民が町政に対して批判的な意見を述べることは、言論の自由として正当な行為である。
D原告が述べたとする町づくりに反する言動・町政批判についての、町長や助役の説明は具体性に欠け、抽象的なものでしかない。
 −−そしてこれらの総括的な結論として、裁判所は「各発言は重要な部分について真実であることが認められる」と判断している。つまり原告である業者の主張を認めているということである。
 ところが不思議なことに、前文を翻すような記述がこの主文の中に何故か盛り込まれているのである。その部分を抜粋してみる。
E伊藤町長の対立候補として選挙戦を戦ったことを理由に、原告を指名から外したことを裏づけるに足りる証拠は存在しない。
F町長と助役が原告を指名から外したことを窺わせるに足りる証拠は存在しない。また、町長と助役が指名委員会のメンバーに対して、原告を指名から外すように指示したことを認めるに足りる証拠は存 在しないと言わざるを得ない。
G町長や助役の発言によって、原告の経済的信用にどのように影響を及ぼしたのか、明確になっていない。また経済的信用が毀損されたことを認めるに足りる証拠は存在しない。
H町長や助役の発言が原告の社会的評価を低下させ、名誉を毀損したとするだけの具体的事実があったとは言えない。
 −−以上のことから裁判所は「原告の請求を棄却した」ものである。
 改めて@〜Dの部分とE〜Hの記述を読み比べてみていただきたい。どう読んでも前段と後段とでは意味が矛盾していることが理解できよう。前段で町長と助役の発言を「真実」と認めていながら、後段では「証拠は存在しない」と逆転した判断をしている。判決の道理を証明する重要な主文が「是」と「非」を混同しているのでは、そこから導かれた判決が果たして正当なものなのかどうか、疑問をもたざるを得まい。
 しかも、町長と助役が「町長選と町政批判に関して指名外しをした」とはっきり認めているのである。犯罪者の自白が捜査や裁判上の有力な証拠となる日本の司法からすれば、町長と助役の発言は「加害者的な当事者」が述べたものであり、これに勝る証拠はあり得まい。
 ちなみに裁判所は「原告の経済的信用の毀損、社会的評価の低下を認めるだけの証拠と事実は存在しない」と述べているが、これは机上の論理でしかあるまい。現実にこの業者は町から指名外しを受け、「反町長派」と見られたために、取引先から色眼鏡で見られるようになったという。有形無形の影響は少なからず被っているのである。
 この業者はこの判決を不服とし、控訴する構えだが、このような納得できない判決を下されたのでは当然の措置ではあろう。
 そして、たとえその結果、再び棄却されたとしても、伊藤町長と助役が成した行為と発言は、迫町議会と業者の間で記憶に残るに違いない。「町長に歯向かう者は、このような見せしめを受けるのだ」ということを、今回の「事件」は知らしめたものであり、町長が一町民から告訴されるという、前代未聞のケースだからである。
 裁判の結果が今後どう推移するか注目されるところだが、それとは別に伊藤町長の「品格」と、「天の声」がどのように発せられるのかを知らしめてくれた「貴重な実例」になったことだけは間違いなさそうである。
 
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