2001.12
第3号4P
 
  地域活性化・経済振興のために、各自治体がさまざまな企画を展開している。登米郡迫町もその1つで、地元企業に対して奨励金制度を実施中だ。ところが、この制度の条件に該当しない、それも町長と関わりの深い企業に奨励金を交付したために「救済支援」との批判が起こっている。その実態はこんな具合である。
 
 迫町が実施している奨励金制度は正確には「工場新設奨励金」と言い、昭和61年に交付条例として施行され、現在に至っている(平成11年に一部改正)。趣旨は「迫町内に工場の新設を促進させることで、産業振興と雇用機会の拡大を図り、町の均衡ある発展と町民生活の向上に寄与したい。そのため町内に工場を新設した企業に対し、奨励金を交付する」というものである。
 交付の該当要件としては、@製造業、A平成12年1月1日以降に工場を新設したか、もしくは既存施設を取得したもの、B投下固定資本額(土地を除いた固定資産の取得に要した資金総額)が3千万円以上、C常時雇用従業員数が15名以上−−となっている。
 この条件に該当する企業が申請すれば審査の上「操業を開始した年度から3カ年度に限り、その工場にかかる固定資産に対して賦課された固定資産税の相当額を上限として、町が奨励金を交付する」。つまり、1度企業が納めた固定資産税の3年度分を町が奨励金として還付するという仕組みで、迫町ではこれまで3年度ごとに1社を対象に(1社が3カ年度交付を受けるため)実施してきている。
 固定資産税は企業によって異なるが、ここ数年間の奨励金交付実績をみると、3カ年合わせて多いところで800万円弱、少ないところでも400万円ほど交付されている。長引く不況で資金繰りに頭を痛めている企業が多いことからすれば、ありがたい制度と言える。
 問題視されているのは、平成12年度から交付を受けている「長沼環境開発」という企業についてである。同社は1年度当たり約374万円(その年度によって交付金は若干異なる)を交付されており、この額はここ最近の奨励交付金としては最高額で、3カ年分を合計すると1千100万円ほどになると見られている。だが、どう見ても前述した交付対象要件に該当しているとは思えないのである。

 長沼環境開発は平成9年1月に設立。その社名からは想像できにくいが、主な事業は地ビールの製造・販売と不動産賃貸で、平成10年5月から操業を開始した。売上げ構成比は地ビール製造、不動産賃貸ともに約50%ずつ。ちなみに納入先は同じ敷地内でビアレストランを開業している「長沼ウイングガーデン」(平成9年3月設立)で、実はこのレストランの建物は長沼環境開発が賃貸している。社長は両社ともに山田直志氏。つまり両社は系列会社という以上に一体企業とみなすことができるだろう。後述するが、この点が「摩訶不思議な操作」として問題になってくるのである。
 では、長沼環境開発のどの点が奨励金交付対象要件に則していないのかというと、次の2点に該当しないことによる。
 前述したように、対象要件には@平成12年1月1日以降に工場を新設及び既存施設を取得した企業、A常時雇用従業員数15名以上−−と謳われている。ところが長沼環境開発の場合、平成10年5月の操業開始であり、平成11年12月現在で従業員数は3名にすぎない。どう考えてもクリアーできるものではないことは明らかである。
 長沼環境開発が迫町に提出したのは、平成12年4月11日。この申請書によると、従業員数は16名で、先の平成11年12月からわずか5カ月の間に13名も増えたことになる。仮りにそれが事実だとしても、操業年月は平成10年5月と記載されていることからして、これでは@の条件を満たしておらず、交付対象に当てはまらないことになる。ところが、なぜか迫町はご親切にも奨励金を交付しているのである。
 改めて記すまでもないが、この奨励交付金制度は条例で定めたものである。条例とは自治体における法律である。その法律を定めた町そのものが、法律に違反した行為を行なっている。不可解を通り越して納得できるものではあるまい。迫町はどういう根拠で長沼環境開発を交付対象企業と見なしたのか。担当の商工都市計画課課長は次のように答えている。
 −−長沼環境開発は平成10年5月に操業している。すぐに申請できたのに、12年に申請したのはなぜか?
「会社から事前に相談を受けた町の担当者が、固定資産税の納税後でないと交付を受けることができないなどの説明・アドバイスをした。そのため実際の申請が12年4月になったものと思われる。また、10年度内時点では従業員数の要件を満たしていなかったため、申請できなかったと推測される」
 −−では町は従業員数が16名というのを、どのような方法で確認したのか?
「会社に出向いて全体状況を確認し、12年4月現在の時点では従業員が16名だと認定した。ただ、会社から提出された従業員名簿に基づいて個別に当たったわけではなく、雇用保険の加入・非加入も確認していないし、在籍確認となる裏付け書類は何も徴収していない」
 要するに、従業員名簿を見ただけで判断したということである。「交付に当たっては審査の上」とあるが、実際はノーチェックだったのだ。その杜撰さに驚かされるが、それ以上に長沼環境開発の従業員数がそれまでの3名から16名に急増できたのはなぜなのか。先に「摩訶不思議な操作」と記したのは、実は次にような方法をとったとしか考えられないからである。地元の一人はその方法を次のように解き明かす。
「長沼ウイングガーデンの従業員を、書類上だけ長沼環境開発で雇用したことにしたんだ。それが証拠に11年8月時点でウイングガーデンには12名の従業員がいたが、今は雇用保険に加入している者は1名だと言われている。実際、長沼環境開発の従業員はウイングガーデンで働いているもの」
 これが事実とするなら、私文書偽造による詐欺行為に当たるし、同時に長沼環境開発は事実上は就労していない従業員を雇用保険に加入させていたことにより、税金控除を受けていることからして、脱税行為にも該当することになる。

 ちなみに言えば、今年11月30日に民間信用調査機関が長沼ウイングガーデンを調査した資料によると、驚くことにこの会社の従業員はゼロ。1人もいないことになっている。これではレストランに来たお客に応対し、料理をつくる者が誰もいないということになる。誰がどう考えてもあり得ることではない。
 このため地元では迫町に対して、長沼環境開発の奨励金交付申請に関する全資料の情報開示請求を行なったが、「プライバシーの侵害になる」との理由で、開示されたものはほとんどが墨で塗りつぶされている。そのため「町の財政は厳しい状況にあり、ムダな支出は極力抑えなくてはならないのに、これでは町が長沼環境開発に加担して救済してやっているようなものだ」という批判の声が挙がっている。実際、これまでの経緯をみれば、そう判断されても仕方がないだろう。
 では、なぜ長沼環境開発は、というより山田直志社長はこうした行為をしたのだろうか。考えられることは経営状態が厳しいということである。山田氏は長沼環境開発と長沼ウインガーデンのほかに、建築・不動産売買のヤマダ地所も経営しているが、いずれも苦戦を余儀なくされている。そのことは民間調査機関による以下の調査からも窺えよう。
<ヤマダ地所> (平成10年11月現在)
・売上高9億400万円
・経常利益360万円
・長期借入金8億5300万円
・総資産10億2200万円
・総負債11億1000万円

<長沼環境開発>(平成10年12月末現在)
・売上高4300万円
・経常利益400万円
・長期借入金3億3200万円
・総資産5億8400万円
・総負債4億6100万円

<長沼ウイングガーデン>(平成13年4月現在)
・売上高1億8700万円
・利益6000万円の赤字
・総資産3000万円
・総負債2900万円

 これを見れば、グループ企業の母体とも言うべきヤマダ地所は債務超過であり、長沼ウインガーデンが赤字なことからして、そこに地ビールを納入し、賃貸料を得ている長沼環境開発も経営は厳しくなるのは当然のことである。山田氏でなくても、ワラにもすがりたい気持ちになるだろうし、そのためできる限りの方策を考えたとしても不思議ではあるまい。
 一方、迫町は山田氏に対して、なぜ異例とも言える「救済措置」をしたのだろうか。地元では次のような理由からだと見られている。
「山田社長と伊藤吉衛町長は、地元の佐沼高校の同級生だ。しかも単に同級生というだけでなく、山田社長は町長のシンパとして知られており、選挙などでもずいぶん支援している。また、町長の方でも山田社長が経営する会社の監査役に、町長の奥さんが今でもなっている。シンパというより、山田社長が経営する会社は、町長にとって身内企業のようなものだろう。地元ではそう見ている」(地元の経営者)
 なるほど、こうした密接な関係であれば、お手盛り的な救済措置をするのも頷けようというものである。
 ただ、こうした条例を踏み外した形で奨励金を交付したことに対して、迫町は町民にどう説明するのだろう。今さら述べるまでもなく、その原資は町民の税金なのである。同時に、町内の企業から「うちにも奨励金を」と言われたら、どう対処するのだろう。「特例」とはいえ前例をつくってしまったことで、これまた却下するだけの正当な理由がみつけにくいことになりそうである。
 いずれにしろ、迫町の行政姿勢と、伊藤町長の「見識」が問われた「大甘措置」だったことは、間違いあるまい。














伊藤吉衛
迫町長
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