2001.12
第3号8P
 
 塩釜市に日本中央競馬会(JRA)の場外馬券場を誘致しようという計画が進められている。だが、この構想は一部の推進派が水面下で「画策」しているとしか思えず、本来の趣旨である活性化にもならないものである。果たして、このまま決定していいものなのかどうか。改めてその矛盾点を検証してみたい。
 
 場外馬券場(以下「ウインズ」と記載)誘致の矛盾点を記す前に、この計画について塩釜市の各層がどれだけ認識・理解しているかを知る必要があるだろう。ギャンブル施設の設置は一人当事者だけの問題でなく、交通面、青少年への影響、さらには住環境など、市民生活全体に関わってくることだからである。
「この問題で校長会や教育委員会で討議されたことはないです。計画についても実はよく把握していません」(交通路に当たる中学校の校長)
「PTAでは話し合ったことはありません。誘致しようとしている人からも、1度も説明を受けたことはありません」(交通路内の小学校のPTA会長)
「計画があることは新聞で知ったけど、どういうものなのかは全くわかりませんね」(数人の市民の声)「商工会議所として、この問題を検討したことは1度もありません」(塩釜商工会議所)
 市経済の活性化を含め、塩釜市全体に関わる大きな問題であるにも関わらず、この有り様である。

 一方、この件に関して塩釜市役所はどういうスタンスをとっているのか。今年9月の市議会でこう述べている。
「ウインズ誘致に関しては、先の議会で設置に反対する請願が否決されている。私としてはこの結果を重く受け止め、また塩釜水産物仲卸市場(以下「仲卸市場」と記載)が不況を打破する目的で取り組まれているという経緯も踏まえて、今後の推移を見守っていきたい。最終的な許可はJRAと警察署の協議を踏まえて、農林水産大臣が判断するもの。市としては、その結果を見守りたい」(三升正直市長)
 持って回った物言いをしているが、要は塩釜市としてはウインズ誘致に賛成ということである。そのことは市長が言うところの「請願が否決された結果を重く受け止め、仲卸市場が不況を打破する目的で取り組まれている経緯」という表現が端的に証明していよう。
 塩釜市は現在、財政危機の状態に陥っており、向こう5年間で60億円の赤字が見込まれており、3年後には準用財政再建団体(企業で言うところの事実上の倒産に当たる)に転落する可能性がある。その中にあって「三升市長はこれといった財政再建策や経済活性策を打ち出せないでいる。このためウインズ誘致が活性化の起爆剤になると踏んでいる」(議会関係者)と見られている。
 財政危機の克服と経済の活性化をギャンブルに頼るというのは、あまりにも不様な気がしないでもないが、では市長が言うところの肝心の当事者である「仲卸市場の取り組みの経緯」と、周辺の町内会ではどういう状況にあるのかというと、こんな具合である。
「昨年1月に仲卸市場で誘致の賛否をとったときは反対が圧倒的だった。それが4月にまた採決することになって、拍手で決めるという強引な方法で決を採り、それで誘致すると決めてしまった。
それ以後、討議らしきものは何もない。推進派の者がいろいろ動いているようだけど」(仲卸市場の数人の組合員)
「2年ほど前に仲卸市場のウインズ推進派の1人が町内会に説明に来た。その後、町内会としてウインズ誘致の同意書を出したようだが、あれは町内会の総意というものでなく、町内会長個人として署名したものと、我々は思っている。というのも、説明が十分ではなかったし、採決するには出席者が少なすぎたから。それ以後、総会も開かれていないし、どうなっているのか、さっぱりわからない」(ある町内会の役員)
 肝心要の当事者ですらこんな状態で、説明・討議は何一つされていないのである。これらのことは何を意味するか。塩釜市全体に関わる問題、市経済に関わる問題を、市民はもちろん、市内最大にして唯一の経済団体である商工会議所も、行政を預かる塩釜市も、そして当事者の仲卸市場も町内会も、誰一人として真剣に取り組んでいないということである。事態がどうなっているか、何ら把握していないということである。
 つまりは、一部の推進者が勝手に進めているということなのだ。前述した三升市長の「仲卸市場が取り組んでいる」という発言は、言うまでもなく「仲卸市場全体が取り組んでいる」という趣旨である。では何を根拠にそう判断しているのか。単なる思い込みか、それとも推進派の言うことを鵜呑みにしているとしか思えない。そして、ウインズ誘致に関する最大の問題点・矛盾点は、これだけの重要事項であるにも関わらず、誰も正確な情報・現状を把握していないまま進められているということに尽きるだろう。
 小紙の取材によれば、事態は少しも進展していない。むしろ混迷を深めている。そのことは次の経緯からも明らかである。

 そもそもウインズ誘致構想は、仲卸市場の施設が老朽化したことと、数年前から売上げが減少傾向にあることから、その打開策として浮上した。開設場所は仲卸市場裏に位置する駐車場と塩釜塩乾市場を当てるというものである。当初は仲卸市場組合がウインズを運営する計画だったが、組合法の関係などからJRAが直営する方式に決定。このためJRAは駐車場の所有者である仲卸市場の各組合員と塩乾市場の各組合員に、土地の売買交渉を進めており、その交渉が現在も行なわれている。というより、実際は暗礁に乗り上げていると言った方が正確だろう。
 その理由としては@JRAが提示した売買価格が坪14万円で、当初組合員が買った坪27万円と比べてはるかに安いこと、A駐車場を売り払えば、組合員たちが駐車させる場所を新たに自分たちで確保しなければならなくなること、Bウインズ開設に伴い、仲卸市場はそのまま残るものの、塩乾市場はなくなるため、現在そこで営業している業者を移転する必要があること−−などによる。
 現時点ではこの3点のどれもがクリアーされていない。中でも大きな問題になっているのは、Bの塩乾市場の業者の移転場所についてである。塩乾市場には29の業者が店舗を構えて営業している。この人たちはJRAの売買交渉に対し、当然のことながら条件を提示している。その条件とは@仲卸市場内に店舗を移転させること、Aあるいは仲卸市場裏の駐車場に移転させること−−というものである。
 ところが、この条件に対して仲卸市場内の業者から反対が出ている。その理由は「移転してくれば、それでなくとも狭い市場内の各店舗スペースが一層狭くなることと、それ以上に競合することになるからだ」(仲卸市場内の業者)。実は仲卸市場内には、塩乾市場の業者が扱っている品物と同じものを売っている業者が約45社ある。しかも「値段は塩乾市場の業者の方が大分安い」(ある業者)。仲卸市場内の業者からすれば、お客を取られるという不安が起こるのは当然のことだろう。このため仲卸市場内に移転させることはもちろん、駐車場に店舗を移すことにも、同意していない。
 しかも、塩乾市場の業者と競合しない、仲卸市場内の大半の業者にしても「ウインズ誘致には反対だ。市場の活性化にはならない。むしろ、これまで足を運んでくれたお客が、ウインズができてゴチャゴチャするために、来なくなる可能性があり、そうなれば市場は潰れるだろう。市場ではそうした見方をしている者が多く、賛成しているのは10人ぐらいで、大多数は反対している」(ある業者)という。それが公然と言えないのは、「お互いが同じ場所で商売しているため、口に出せないからだ」(業者の1人)と洩らしている。
 これらのことは何を意味しているか。当事者である仲卸市場内が大半の業者が反対しているにも関わらず、強引にウインズ誘致を決めていこうとしているということである。しかも、そのためにクリアーできそうもない条件を、むりやり呑ませようとし、単に土地を売ってもらえば、あとのことは自分たちでしろという、言わば放り投げるような手法で進められようとしているということである。
 仲卸市場の活性化のために、塩乾市場の業者が犠牲になる必要は一つもない。むしろ両者は隣り合わせる水産業者として運命共同体であり、お互いに連携して市場の活性化を図っていかなくてはならない立場にある。それをないがしろにするような進め方は、どう考えても納得できるものではあるまい。
 さらに言えば、業者が前述しているように、仮りにウインズが開設されたにしても、仲卸市場が活性化するとは、到底思えないことである。実は「JRAはウインズ開設が仲卸市場の活性化になるとは一言も言っていない」(関係者)のである。このことは次のことからも証明できる。
 ウインズ推進派の者が当初、仲卸市場の組合員に説明した際に、「誘致の条件として老朽化した市場の改築費をJRAに負担してもらう」と言い、それで賛成を募った経緯がある。ところが、その後に「JRAとしては改築費を出すつもりはないことがわかり、それで当初の話と違うということで、反対者が多くなった」(ある組合員)という。

 つまり、JRAとしては、ウインズの開設と仲卸市場の活性化は別と割り切っているということである。繰り返すことになるが、仲卸市場がウインズ誘致を計画したのは、あくまで「市場の活性化のため」だったはずである。その活性化の共同推進者とも言うべきJRAが、仲卸市場の活性化を少しも考慮していないというのでは、単に土地を提供してやるだけであり、市場活性化という最大の目的の根本からずれているとしか言いようがないだろう。
 しかも、ウインズが開設されれば、仲卸市場の営業時間をウインズの時間帯に合わせるという。現在、市場は夜明け前の午前3時頃からから営業し、昼頃には閉める。これがウインズ開設となれば、土・日曜は夕方4時まで延長しなくてはならなくなる。市場の業者は60代以上の人が大半であり、たとえ若者でも体力が続くものではない。
 また、推進者は「ウインズ来場者が仲卸市場で買物してくれる」と述べているそうだが、ギャンブル好きの心理からすれば、帰りの足代を除けばほとんど投資するものである。しかも、生きのいい魚類を扱っているだけに、値段も馬券を買うよりは高い。それならもう一勝負という気になるのが、世の常であり、ギャンブル好きの心理である。
 こうした諸々の点を見ていけば、誰が考えてもウインズは仲卸市場の活性化にはならないと言えるだろう。むしろ市場を崩壊させる要因になる。
 塩釜市は古来より「魚の町・水産業の町」として名を馳せてきた。それを「ギャンブルの町」にして、どんなメリットがあるのか。仲卸市場の活性化という本来の趣旨から逸脱しているという矛盾。そして一部の者だけが勝手に決めて進めているという不可思議さ。このままの形で進むなら、塩釜市は後世の笑い物になるであろう。
 
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